サイト全体を検索

  • TOP
  • News & Topics
  • AI時代、広告代理店人材の「市場価値」は暴落するのか? 生き残るためのキャリア戦略

News & Topics

2025.09.10

AI時代、広告代理店人材の「市場価値」は暴落するのか? 生き残るためのキャリア戦略

序章:その「安定」は、いつまで続くのか?

広告業界の最前線で活躍する皆さん、日々の激務、お疲れ様です。

人気企業で最先端のマーケティングに携わり、担当案件は増加、売上も順調。キャリアパスは明るく見えます。しかし、「このまま自分の価値は上がり続けるのか?」「AIに仕事を奪われるのではないか?」──そんな漠然とした不安が頭をよぎることはないでしょうか。

デジタルマーケティング分野で13年以上、人材支援を続けてきた私の目から見ても、AIという巨大な地殻変動は、かつてないスピードで業界構造を塗り替えようとしています。

かつてデジタル広告が台頭した頃、「これからはデジタルの時代だ」と、その波に乗ること自体がキャリアの成功を約束していました。しかし、今は違います。AIは、特定のチャネルや手法の知識だけでは太刀打ちできない、根本的な「働き方の変革」を迫っています。

現に、テクノロジーの進化により、かつて花形だった「デジタル広告運用」の専門人材募集は激減しました。これは、これから起こる変化の序章に過ぎません。

あなたの不安は、決して杞憂ではありません。この不可避な変化の波を乗りこなし、10年後も必要とされる人材であるために何が必要なのか、一緒に考えていきましょう。

加速するAI実装と、市場価値の分岐点

広告業界におけるAIシフトは、もはや「未来予測」ではなく「現在進行形」のファクトです。

電通デジタルの「∞AI(ムゲンエーアイ)」や、博報堂グループの「CREATIVITY ENGINE BLOOM」といった大手グループの取り組みは象徴的ですが、ネット専業代理店においてもAI活用は事業の根幹に組み込まれています。

  • サイバーエージェント:「AIオペレーション室」による全社的自動化推進、効果予測AI「極予測AI」の開発。
  • オプト(デジタルホールディングスグループ):生成・予測AIツール「CRAIS for Text」や「Open CTR Predictor」の提供。
  • セプテーニ:クリエイティブソリューション「Odd-AI」シリーズの展開。
  • アイレップ:広告文自動生成AI「H-AI SEARCH」の開発。

広告業務のあらゆる側面でAI実装が「当たり前」になり、オペレーションの効率化は限界まで進もうとしています。

重要なのは、この現実にどう向き合うかです。AIを活用していない時点で遅れをとっているのは論外ですが、単に「AIツールを使っている」だけで、あなたの市場価値は高まるのでしょうか? 答えはノーです。

本稿では、AI時代に陳腐化せず、市場価値を高め続けるために、代理店人材が持つべき視点と行動指針を解説します。

企業成長を実現する「越境型」人材こそが、本質的な価値を生む

大前提として、AIによる業務効率化やコストカットだけでは、企業の持続的な成長(グロース)は実現できません。

これからの時代に本当に求められるのは、AIを「手段」として駆使しながらも、企業成長という最上位のゴールに向けて、戦略を描き、組織を動かし、実行まで完遂できる人材です。

この概念は、海外の先進企業やコンサルティングファームではすでに主流となっています。

  • パープル・ピープル:デロイト トーマツなどが提唱。ビジネス(赤)とテクノロジー(青)の双方に精通し、橋渡しができる人材。
  • ハブ人材:シリコンバレーのテック企業で不可欠とされる。異なる専門性を持つチーム(例:エンジニア、デザイナー、セールス)を繋ぎ、プロジェクトを推進する。
  • BTC人材:グロービス経営大学院が提唱。ビジネス、テクノロジー、クリエイティブを横断し、イノベーションを起こす次世代型リーダー。

AI時代に求められるのは、特定の職能に特化したスペシャリストではなく、領域を越境して価値を創出する「総合力」を持った人材なのです。

この流れは、日本の大手企業でも顕著です。例えば、電通が提唱する「IGP(Integrated Growth Partner)」は、広告という枠を超え、クライアント企業の成長を統合的に支援するビジネスパートナーを指します。

また、人材市場においては、アクセンチュアの戦略コンサルティングから派生したアクセンチュア ソングの成長戦略コンサルタントや、アビームコンサルティング、Big4(Deloitte, PwC, KPMG, EY)、NRIデジタル、電通デジタル、NTTデータなどで募集されているビジネスプロデューサーやDXコンサルタントといったポジションが、まさにこの「総合力」を持つ人材を求めています。

彼らには、非常に高い年収でのオファーが提示されています。

企業が切望しているのは、テクノロジーを理解し、ビジネスの全体像を俯瞰できる、次世代のビジネスプロデューサーなのです。

「頑張っているのに評価されない」理由 ― 環境の重要性

個人の努力は不可欠です。しかし、どれだけ意識を変革しようと、所属する企業の組織構造や文化が、あなたの成長を阻害することがあります。

私はこれまで300社以上の企業と向き合ってきましたが、「最先端テクノロジーの活用」「人材育成への積極投資」を標榜しながらも、実態が伴わない企業を数多く見てきました。

  • 変革の必要性を理解しつつも、目先の売上目標達成を優先してしまう。
  • 従来の成功体験や既存の組織体制を変える「痛み」を避ける。
  • 部署間のサイロ化とセクショナリズムが根深く、連携が生まれない。

こうした企業では、どんなに個人が「越境」を目指しても、成長は限定的になります。結果として、真面目に会社のために尽くしている人ほど市場価値が停滞し、皮肉な結果に終わっているのが現実です。

時間は有限であり、年齢を重ねるほど新しい分野へのキャリアチェンジの難易度は上がります。市場は待ってくれません。あなたのスキルが陳腐化する前に、今の環境で成長の機会が得られないと感じたら、働く場所を変えることも真剣に検討すべきです。

今いる会社で、意識と行動を変えるためのファーストステップ

とはいえ、転職という大きな決断をする前に、まずは今の環境でできることを試してみましょう。

意識変革のヒント:「事業成長」の当事者意識を持つ

自分の業務を「クライアントの事業成長」という最上位の視点で捉え直してください。広告予算の消化やCPA改善だけでなく、クライアントの収益構造(PL)、市場での競合優位性、ビジネスモデル全体に関心を持つことで、より本質的な提案が可能になります。 「あなたが介在したことで、クライアントの売上は具体的にどれくらい向上しましたか?」──この問いに即答できるでしょうか。

行動変革のヒント:テクノロジーを理解し、自ら「越境」する

AIツールや新しいプラットフォームを単なる「作業道具」として捉えず、その背後にある仕組みや進化の方向性を理解しようと努めましょう。また、普段接点のない社内の他部署(データサイエンティスト、エンジニア、プロダクト開発者など)と積極的に交流し、彼らの視点や専門知識を学ぶ機会を設けてください。 これらの知見をクライアントへの提案に活かすことが、あなた独自の価値に繋がります。クライアントの業務プロセスを見て、「もっと効率化できるのに」と感じることはありませんか?

AI時代を勝ち抜くための具体的キャリアマップ

ここからは、職種別に、AI時代に目指すべき姿と、あなたの価値を証明する「レジュメ(職務経歴書)」の具体例を見ていきましょう。

1. 営業職(アカウントエグゼクティブ)

目指すべき姿:「グロースコンサルタント」

広告予算を継続的に獲得することは代理店の売上に直結しますが、クライアントのゴールは「自社の売上を最大化すること」です。求められるのは、広告領域に留まらず、クライアントのグロース(事業成長)を達成する特命担当として、戦略パートナーの役割を全うすることです。

価値あるレジュメの事例

<NG例>

Instagram広告で年間売上2,000万円を達成し、社内MVPを受賞しました。

視点が自社に向いています。クライアントの事業成長に伴走する姿勢が見えにくく、評価されません。これを一番に評価する採用企業があれば残念ながら長期的にキャリアアップできる環境ではないかもしれません。

<OK例>

Instagram広告の最適化とクリエイティブA/Bテストの高速化により、クライアントA社の売上前年比150%増に貢献。また、広告接触者の行動データを分析し、既存顧客向けのリテンション施策(CRM連携)を提案、顧客LTV120%向上に寄与しました。

結果、広告予算は月800万から月1500万に倍増。 さらに翌年は、広告領域に留まらず、ECサイトのUI/UX改善や、AIを活用した業務効率化支援まで踏み込んだ提案を実施。先方のPL構造を理解した上で論理的な投資対効果を提示し、結果的に毎月2000万円の予算を継続的にお預かりする体制を構築しました。

2. プランナー職

目指すべき姿:「CX(顧客体験)アーキテクト / コンサルタント」

単発のキャンペーン企画やメディアプランニングだけでなく、テクノロジーとクリエイティブを融合させ、顧客体験(CX)全体を設計し、時にはビジネスモデルの変革まで伴走する力が求められます。

価値あるレジュメの事例

<NG例>

新規サービス「〇〇」のローンチキャンペーン企画を提案し、採用されました。

企画提案自体の価値は、生成AIにより相対的に低下していきます。戦略立案から実行、そして事業成果への貢献までを語れる経験があるかが重要です。

<OK例>

クライアントB社のDX推進プロジェクトに参画。事業課題の分析に基づき、AIチャットボット導入による顧客接点の変革を提案・実行。顧客満足度の向上とコールセンターのコスト削減を両立させる新たなオペレーションモデル構築に貢献しました。

また、PR会社と連携し、TikTokを活用したUGC創出キャンペーンを実施し話題化に成功、サービス登録者数が倍増。登録者データに基づいたナーチャリング施策を展開し、売上向上を実現。その後のリサーチによりロイヤリティ向上が確認され、CX全体の価値向上が証明されました。

3. 運用担当者(オペレーター / データアナリスト)

目指すべき姿:「データ・ソリューション・アーキテクト」

広告運用の手作業はAIによって自動化・効率化が加速します。求められるのは、分断されたデータを統合・分析し、高度なインサイトを発見し、それをビジネス上の具体的なソリューション(解決策)に落とし込む設計能力です。

価値あるレジュメの事例

<NG例>

リスティング広告の入札調整により、CPAを30%改善しました。

 CPA改善は重要ですが、それは広告プラットフォームのAIでも可能です。運用データからクライアントも気づいていない新たな示唆を提供し活用するイメージまで、できているかが問われます。

<OK例>

広告配信データと、クライアントが保有する1st Partyデータ(購買データ、会員情報)をCDP上で統合的に分析し、LTVの高い顧客セグメントのインサイトを発見。これにより、単なる広告最適化ではなく、ECサイト全体のUI改善や商品開発戦略にまで踏み込んだ事業変革を提案。

さらに、複数の外部パートナーデータ(例:位置情報、天候データ)を掛け合わせることで、これまで見えなかった顧客の潜在ニーズを可視化し、新規事業の立ち上げにも貢献しました。

結び:不安を原動力に行動する。そして「環境」を冷静に見極める

AIの進化は、皆さんのキャリアを脅かすだけではありません。むしろ、定型業務から解放され、人間にしかできない「創造性の発揮」と「複雑な課題解決」に集中できる絶好のチャンスです。

今、あなたが感じている不安は、次のキャリアステージに進むための健全なサインです。まずは、あなたの仕事の「何がAIに代替され、何が人間にしかできない本質的な価値か」を真剣に見極めてください。

しかし、危機感を持ち、個人で努力を重ねるだけでは限界があることも事実です。私たちは組織に属している以上、会社の戦略やカルチャーに大きく影響を受けます。個人がどれだけ変革を望んでも、組織の壁が成長を阻むケースは少なくありません。

また、「会社が成長しているから」「給与が高いから」といって、あなたの市場価値が自動的に上がっているとは限らない、という現実も直視する必要があります。

重要なのは、今の環境が、AI時代に求められる「総合力」「越境力」を伸ばす場として最適かどうかを、冷静に見極めることです。

もし、ご自身の目指すキャリアと現在の環境にギャップを感じるなら、成長のために「環境を変える」決断も必要です。

転職のご相談はウィンスリーへ

「自分の市場価値は客観的に見てどうなのか?」「環境を変えるべきか、留まるべきか?」──キャリアの岐路で迷った時は、一人で抱え込まず、ぜひ私たちウィンスリーにご相談ください。

デジタルマーケティング業界の変遷と人材市場の最前線を知るプロフェッショナルとして、あなたの可能性を最大化するための次の一歩を共に考えます。

無料転職相談はこちら

執筆者

黒瀬 雄一郎(くろせ ゆういちろう)|株式会社ウィンスリー 代表取締役 / ヘッドハンター

慶應義塾大学経済学部卒業後、大手企業を経て、2000年代初頭よりデジタルマーケティング業界の黎明期からキャリアを積む。

大手広告代理店グループにてデジタル専門会社の立ち上げに参画し、営業・マーケティング部門の統括として組織を牽引。

2012年に株式会社ウィンスリーを設立。13年以上にわたり、デジタル・DX領域の変遷と人材のキャリアアップを支援し続けている。

黒瀬 雄一郎のプロフィールを見る