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はじめに: 30歳、マーケターとしての重要な岐路
デジタル広告代理店で8年間のキャリアを積んだ30歳のマーケターが、今、大きな選択を迫られています。大手消費財メーカーや小売企業、ToC向けのITサービス企業から届くインハウスマーケターのオファー。
一方で、このまま代理店でマネージャーを目指す道もある。年収はほぼ同等、しかし働き方もキャリアの方向性もまったく異なる二つの選択肢。
あなたなら、どちらを選びますか?
30代はマーケターとしてのキャリアを大きく左右する分岐点です。この時期の選択が、40代以降のポジション、年収、そして働き方の質を決定づけると言っても過言ではありません。
本コラムでは、代理店とインハウスマーケター、それぞれのキャリアパスが持つ価値を多角的に分析し、あなたの市場価値を最大化するための判断基準をお伝えします。
代理店とインハウス、根本的に異なる「マーケティング」の意味
まず理解しておくべきは、代理店と事業会社のインハウスマーケターでは、「マーケティング」という言葉が指す仕事の本質が異なるということです。
代理店マーケター:「クライアントの現在」を支援するプロフェッショナル
広告代理店のマーケターは、複数のクライアント企業の「現在」を支援する立場にあります。短期的なキャンペーンの成果、四半期ごとのKPI達成、プロジェクト単位での成功が評価の軸となります。クライアントの課題に対して、スピーディーに仮説を立て、提案し、実行支援する。その過程で培われるのは、業界を横断した知見、提案力、そして何よりスピード感です。
30代で代理店のマネージャーになれば、複数のプロジェクトを統括し、チームをリードする経験を積むことができます。この経験は、その後さらに大手の代理店やコンサルティングファーム、あるいは事業会社のマーケティング責任者へとステップアップする際の強力な武器となります。
インハウスマーケター:「自社の未来」を設計する戦略家
一方、事業会社のインハウスマーケターは、「自社の未来」を見据えた中長期的な視点でマーケティングを設計します。単なる施策の実行ではなく、「なぜその施策を行うのか」という戦略レベルから関与できるのが最大の特徴です。
ブランドの世界観を守りながら育てていく責任、商品開発や営業部門との連携、経営層への提案。代理店では「クライアントワーク」として外側から支援していたことを、今度は内側から当事者として推進する。この経験を通じて身につくのは、事業理解の深さ、経営視点、そして部門横断的なコミュニケーション力です。これらは将来的にCMO(最高マーケティング責任者)を目指す上で不可欠なスキルセットと言えます。
市場価値の観点から見た、それぞれのキャリアの強み
「市場価値」という言葉を聞くと、多くの人が「どちらが転職に有利か」という短絡的な視点で考えがちです。しかし実際には、代理店とインハウス、それぞれがまったく異なる「市場価値」を生み出します。
代理店経験が生み出す市場価値
代理店での経験は、転職市場において常に高く評価されます。複数業界での実績、クライアント折衝能力、スピーディーな施策実行力、そして提案力。これらは多くの企業が「即戦力」として求めるスキルそのものだからです。
特に近年、事業会社がマーケティングのインハウス化を加速させる中で、代理店経験者への需要は急増しています。デジタルマーケティングの実務を知り、PDCAを回せる人材は引く手あまたの状況です。30代で複数のプロジェクトマネジメント経験があれば、転職市場での選択肢は非常に広がります。
インハウス経験が生み出す市場価値
一方でインハウスマーケターとしての経験も、異なる形で高い市場価値を生み出します。一つのブランドを深く理解し、戦略から実行まで一気通貫で関わった経験。経営層と直接コミュニケーションを取りながらマーケティング予算を獲得し、組織を動かした実績。
これらは、マーケティング部門の責任者やCMO候補として評価される重要な要素です。特に40代以降のキャリアを考えた場合、「プレイヤーとして手を動かせる」だけでなく、「戦略を描き、組織を動かせる」経験の有無が、ポジションと報酬を大きく分けることになります。
「スキルの幅が狭まる」という懸念は本当か?
インハウスマーケターへの転職を躊躇する理由として、多くの方が「スキルの幅が狭まるのではないか」という不安を挙げます。確かに、一つの企業、一つの業界に特化することで、代理店時代のような多様な案件経験はできなくなります。
しかし、この懸念は視点を変えれば異なる評価になります。代理店では「広く浅く」だった経験が、インハウスでは「深く統合的に」に変化するのです。
スキルの「幅」ではなく「深さ」を獲得する
代理店時代は複数業界の案件に関われる「幅」が強みでしたが、インハウスでは一つの業界、一つのブランドを深く理解する「深さ」が強みになります。この深さは、その業界のスペシャリストとしての価値を生み出し、同業他社からのオファーや、関連業界でのポジションにつながります。
統合的なマーケティング力が身につく
代理店では主に「施策の実行支援」にフォーカスしますが、インハウスでは戦略立案、予算管理、ブランドマネジメント、商品開発への提言、営業部門との連携、効果検証と改善提案まで、マーケティングのすべてのレイヤーに関わることができます。
この「一気通貫の経験」こそが、マーケターとしての視座を一段高める貴重な機会となります。「なぜこの施策を行うのか」という本質的な問いに、「事業成長」という明確な答えを持って取り組める。これは市場価値を下げるどころか、むしろマーケターとしての実力を養う環境と言えるでしょう。
インハウス転職で失敗しないための企業選び4つの基準
もしインハウスマーケターへの転職を選ぶなら、企業選びが成功のカギを握ります。年収や知名度だけで判断すると、入社後に「思っていた仕事と違う」というミスマッチに陥りがちです。以下の4つの基準で、慎重に企業を見極めましょう。
1. マーケティングが経営の中核機能として位置づけられているか
最も重要なのは、その企業がマーケティングをどう位置づけているかです。単なる「広告発注の窓口」としてマーケティング部門を見ている企業では、あなたの力を発揮できません。経営層にマーケティング出身者がいる、マーケティング予算が明確に確保されている、マーケティング部門が事業戦略の議論に参加している。こうした企業であれば、マーケターとして価値の高い仕事ができる環境が整っています。
2. デジタルシフトを本気で推進しているか
伝統的な消費財メーカーや小売企業でも、D2Cやオムニチャネル戦略に本気で取り組んでいる企業であれば、あなたのデジタル広告の経験は非常に重宝されます。逆に、デジタル化がまだ進んでいない企業に入ると、社内の理解を得るところから始める必要があり、思うように施策が進まないストレスを抱えることになります。
3. マーケティング組織の規模と成熟度
あなたが最初のインハウスマーケターとして入社するのか、それともすでにチームがあってそこに加わるのかで、求められる役割と成長機会は大きく変わります。一人目のマーケターとして入社すれば、ゼロからマーケティング組織を構築する経験が得られる一方、相談相手がおらず孤軍奮闘することになります。すでにチームがある企業なら、ノウハウの共有や相談ができる環境で働けるため、代理店からの転職組には適応しやすいでしょう。
4. マーケティング予算の規模と裁量権
実際にどれだけの予算を動かせるのか、そしてその予算に対してどの程度の裁量権があるのかも重要な判断基準です。予算規模が小さすぎると、できる施策が限られてスキルアップの機会も減ります。また、予算の使い方を細かく経営層に確認しなければならない企業では、スピード感のある施策実行は難しくなります。
働き方の「質」という見落とされがちな重要要素
年収や仕事内容に注目が集まりがちですが、30代のキャリア選択において「働き方の質」は極めて重要な要素です。
代理店のリアル: 高いスキル習得と引き換えのハードワーク
広告代理店、特にデジタル領域は、クライアントワークの性質上、どうしても働き方がハードになりがちです。クライアントの都合に合わせたスケジュール、突然の方針変更への対応、複数案件の同時進行。スキルは確実に磨かれますが、プライベートの時間は犠牲になることが多いのが実情です。「まだまだ自分を追い込んで成長したい」という志向性の方には、代理店でのマネージャー経験は非常に価値があります。
インハウスの魅力: ワークライフバランスと持続可能なキャリア
事業会社のインハウスマーケターは、代理店と比較すると残業時間が少なく、働き方が安定している傾向にあります。30代半ば以降になると、結婚、子育て、親の介護など、プライベートでの責任も増えてきます。この時期に働き方の質を改善することは、長期的なキャリアの持続可能性を高める重要な選択となります。実際、広告代理店から事業会社へ転職する方の多くが、30代半ば以降に「腰を据えて一つの事業を育てたい」「ワークライフバランスを改善したい」という動機でキャリアチェンジをしています。
30代前半と後半で最適解は変わる
同じ30代でも、前半と後半では最適なキャリア選択が異なる可能性があります。
30代前半(30〜34歳): まだ「攻め」の選択肢も
30代前半であれば、代理店でマネージャー経験を積む「攻め」の選択も良い選択だと思います。この時期にマネジメント経験を積んでおくことで、35歳以降の転職市場での選択肢がさらに広がります。体力的にもまだハードワークに耐えられる年代であり、多様な案件経験を通じてスキルの幅を広げるラストチャンスとも言えます。
30代後半(35〜39歳): 持続可能性を重視する時期
一方、30代後半になると、40代以降のキャリアを見据えた「持続可能性」を重視すべき時期に入ります。この年代では、プレイヤーとしてのスキルよりも、戦略構築力、組織マネジメント力、事業理解力といった「管理職として評価される経験」を積むことが重要になります。インハウスマーケターとして事業会社に移り、マーケティング部門のリーダーやマネージャーとして組織を動かす経験を積むことは、40代でのさらなるキャリアアップの土台となります。
あなたの「キャリアの軸」は何か?
最終的には、あなた自身が「何を大切にしたいか」というキャリアの軸を明確にすることが最も重要です。
代理店のマネージャー路線がおすすめな人
- まだまだ多様な案件に関わりたい
- スピード感のある環境で自分を磨きたい
- マネジメント経験を早く積みたい
- ハードワークも厭わない成長志向
インハウスマーケター路線がおすすめな人
- 一つのブランド・事業を深く育てることに興味がある
- 戦略から実行まで一貫して関わりたい
- ワークライフバランスを改善したい
- 中長期的な視点で事業に貢献したい
もちろん、一概に代理店だからワークライフバランスが叶わないとか、インハウスだからマネジメント経験を積めないというような明確な境界があるわけではなく、代理店でもワークライフバランスの取りやすい企業や、インハウスでもマネジメントに早く上がれる企業もあります。あくまで大まかな傾向として捉えていただければと思います。
おわりに: 30代のキャリア選択が40代を決める
30代はマーケターとして専門性を深め、自分の得意領域を確立する重要な時期です。広い視野を持ちながらも、「自分が何のプロフェッショナルになりたいか」を明確にし、そこでの実績を積み重ねることが、40代以降のキャリアの土台となります。
代理店でもインハウスでも、どちらのキャリアにも価値があり、それぞれ異なる市場価値を生み出します。重要なのは、あなた自身の価値観とキャリアの軸に沿って、納得のいく選択をすることです。
転職のご相談はウィンスリーへ
もしこうしたキャリア選択について、もう少し具体的にご自身の状況に即したアドバイスが必要でしたら、ぜひウィンスリーにご相談ください。
デジタルマーケティング領域に特化した私たちだからこそ、あなたの経験やスキルを正確に評価し、市場価値を最大化できるキャリアパスをご提案できます。
代理店とインハウスの両方の求人案件を多数取り扱っており、それぞれの企業のマーケティング組織の実態や社風まで詳しくお伝えすることが可能ですあなたの大切なキャリアの選択を、私たちが全力でサポートいたします。

執筆者

針谷 将幸(はりがや まさゆき)|株式会社ウィンスリー キャリアコンサルタント(国家資格)
慶應義塾大学総合政策学部卒業。学生時代にコンサルファームを設立しデータサイエンティスト兼経営者として活動。
その後、国内大手ERPベンダーで営業・ITコンサルを経験後、ヘルスケア領域のコンサルやSaaS企業での中途採用を担当。
現場と人事両面の経験を活かし、キャリア支援を行っている。
▶ 針谷 将幸のプロフィールを見る
※本コラムはマーケティング&DX専門人材会社ウィンスリーの独自の見解に基づき執筆され一部画像も独自に作成したものです。該当企業の公式見解とは異なり、本コラムの責務はすべてウィンスリーにあります。
